印象に残った看護体験

新潟南病院看護部は患者・家族に寄り添った看護を提供したいと努めています。そこで年1回、「印象に残った看護体験を語る会」を行っています。その中からいくつか事例を紹介します。

最後に望んだこと

2022年1月13日掲載

看護師として2年目の冬を迎えた頃、私は胃癌ステージⅣの癌性腹膜炎で入院となったAさんの担当になりました。Aさんは入院中何度か腹腔穿刺を行っていましたが、処置後も腹水貯留を繰り返し、夜間も十分に眠れない日々が続いていました。

そんな苦しい入院生活の中で、Aさんはナースコールも少なく、看護師に対し苦痛や思いを表出することがあまりない方でした。私は悩みながらも、Aさんは今どんなことを思っているのか知りたいと思いました。そこで、Aさんの元へ訪室し、Aさんの入院中の生活や今後の生活について一緒に考えていきたいと伝えました。Aさんはお腹が張って食事を食べたくても食べれないということ、自身の病状に対して予後が悪いということは受け止めており、痛みが楽になればいいなと思っていることなど、様々なことを私に話してくれました。会話の最後にAさんは、入院前ラーメン屋を経営していた時のことを話してくれました。「俺のラーメンは飽きが来ないんだよ。」「よく来てくれる常連さんもいてさ。具合悪くなってからは店閉めちゃったけど、寂しいってすごく惜しまれたよ。」と笑いながら話すAさんを見て、自分が病気の受け止めや症状のことばかり聞いてしまっていたことに気付かされました。病状が悪くなる前の生活を懐かしみながら話すAさんは少し辛そうにも見えましたが、会話の中で一番穏やかで優しい表情をされていました。

Aさんが入院して2週間後、医師から病状説明があり、Aさんは緩和ケアを望みました。看護師から何かやりたいことはありませんか?と伺うと「帰りたいとかはないけど、たばこが吸いたい。」と話されました。入院直後は自宅退院に向けて希望を話されていたこともあったAさん。私だったら自分の予後を受け止められず、取り乱してしまうかもしれないと思いました。そのような姿を全く見せず、これまで様々な苦痛と闘ってきたAさんの望みをなんとか叶えたいと思い、医師の許可を得て敷地外での喫煙を定期的にサポートすることにしました。喫煙している間、Aさんから「俺はいい人生だったと思う。」等、ご自身の人生を振り返り、様々な思いを聴くことができました。

それから数日後、Aさんは状態が急変し亡くなられました。私はすぐにはAさんの死を受け止められず、Aさんになにかできていたのか何度も考えました。そんな時、先輩からデスカンファレンスの提案がありました。カンファレンスではAさんに関わったスタッフの様々な思いを知り、Aさんが最期に望んだことを叶えられたことは大きなことであると、客観的に振り返ることができました。その方の思いを知ろうとする姿勢は今後もずっと忘れずにいたいと思います。今でもAさんが私に話してくれた言葉やその時の表情が忘れられません。

心に触れ、背中を押す

2022年1月13日掲載

Uさんは元々人と話すことが苦手な方でした。リハビリ目的で当院に転院してきた当日に、担当となった私は退院後のビジョンなどUさんと旦那さんに伺いました。会話中ご本人からは、「あ…うん」など短いお返事しかいただけませんでしたが、旦那さんが「前の病院ではもっと多くのスタッフさんがいらして、それでいて毎日担当が変わるから本人も少し臆病になってしまうところがあるんです。私が毎日来れるわけでもありませんから、どうぞ声をかけてあげてください。」と話して下さいました。Uさんは隣で小さく頷きました。看護師1年目の冬、はじめて一人で受け持つ患者さんであり、わたしも緊張してしまったかと思います。わたしは担当看護師欄に自分の名前を書きながら、自分の名前を一文字間違えていたことに気が付きませんでした。

入院中Uさんは『自宅に退院する』という目標のためリハビリに励んでいました。みるみるうちにベッドでの生活から車椅子乗車、歩行器歩行へと変わっていきました。ご本人のペースでリハビリを進められるようにと考え、できるだけその日の担当でなくてもUさんの部屋にいき会話をしました。「今日はリハビリでフリーハンドで歩いてみた」、「今日のお昼ご飯は好きなものだらけだった」など話していくうちに、Uさんと言葉を交わす回数が増えていき、笑顔が見られるようになりました。そうして、Uさんは自身で電子レンジを扱えるほどとなり退院していきました。迎えにきた旦那さんの嬉しそうな顔も、Uさんの少し得意げな表情も今でも覚えています。

月日は経ち看護師3年目を迎えた春。Uさんの旦那さんが入院されてきました。旦那さんも、偶然にもわたしが担当させていただきました。旦那さんは驚いて、「あの時はありがとうございました。あのあと私が腰を悪くしましてね、寝込んでいたらUがおかゆを温めて休んでって言うもんですから嬉しかったです。」と話してくださいました。入院中によく話しかけに来る看護師がいたこと、話下手な私の話を楽しそうに聞いてくれたとUさんが話し、自宅でも時々わたしが間違えて書いた名前をつぶやくことがあったそうです。私はその話を聞いた瞬間、形容し難い気持ちでいっぱいになり、私が関わった時間がご本人や旦那さんのためになったのだと実感できました。

看護に正解はない、とよく耳にします。患者さんを知ったうえで行う看護の選択肢は、たくさんあると思います。それに納得できたのは、この出来事があったからです。あの時もしこうしていたら…と考えることはありますが、ご本人の立場や思いになりご本人の背中をあと押しすることが、人に寄り添うということなのではないかと考えさせられた出来事でした。

コロナ禍での面会

2022年1月13日掲載

新型コロナウイルスの影響により、当院でも様々な感染対策をとっていますが、そのうちのひとつに面会制限があります。

今まではご家族が面会に来られた際にご本人の顔を見て状態を知ることができ、リハビリの様子を見ていただくことも可能だったので退院に向けての支援もスムーズに行えていたように思います。また状態が悪化されている患者さんのご家族も一緒に過ごす時間を多く持てていました。しかし面会制限を行っている今、それらを実施することも難しく、患者さんも不安を感じていたりご家族も病状がイメージしづらいなど今まで当たり前に行えていたことが難しく、より看護師としての対応力が求められているように感じています。

AさんはストマやCVポートがあり訪問看護を利用しながら自宅で過ごされていました。今回は心不全増悪で入院となりました。ご家族が新型コロナウイルスの濃厚接触者となったため、病院に来ることができず、主治医とは電話連絡のみ行っていました。懸命に治療を行っていましたが、徐々に病態が悪化し意識レベル低下がみられるようになりました。

Aさんが亡くなる前日、私は日勤帯で受け持ちをしていました。ご家族より「本人の顔が見たい。声が聴きたい。」と要望がありました。

私はAさんの携帯電話から旦那さん、娘さん2人にテレビ電話を行いました。ご家族は本人の顔を見ると名前を呼んだり、「苦しいね。大丈夫?」などと声をかけていました。私は今どんな状態なのかなどできる限り丁寧に詳しく説明を行いました。ご家族の声かけに反応はありませんでしたが、Aさんには声が届いていることを伝えました。ご家族は患者さんが入院前と比べ状態がかなり悪くなっているのを見て涙されていました。

今回Aさんを受け持ち、コロナ禍という特別な状況ではありましたが、状態が悪いときや危篤の時にもご家族と本人が会うことができないのはとても辛いことであると実感しました。ご家族からは「最後にテレビ通話を通じてですが、直接顔を見て話ができて良かったかったです。」との声をいただき、ご家族の希望に沿った対応を行うことができて良かったなと思う反面、もう少し何かできたのではないかなと感じることもありました。

現在はONLINE面会ができるようになっていますが、それでも面会が制限されている状況に変わりはありません。ご家族の方が衣類の受け渡しで病院に来たときや連絡を入れる際に、今の状態を少しでも多く伝えることでご家族が安心できるのではないかと思い、必ず心掛けて対応にあたっています。

家族に寄り添った支援の大切さ

2021年1月22日掲載

私は小学生の時に祖母を亡くしています。私たち親族が病院に呼ばれた時には、最後にお見舞いに行った時の笑顔の祖母の姿ではなく、目を瞑ったまま反応がない姿でした。その時そばにいた看護師から「人は最後まで耳は聞こえているから、声を掛けてあげて下さい」と言われ、私たちが言葉を掛けると、祖母の目から涙がこぼれ落ちました。今でもその時の看護師の言葉と祖母の表情は鮮明に覚えています。

看護師になってから受け持ったAさんは、膵臓がんの終末期の状態でした。娘さんが2人いて、ほぼ毎日お見舞いに来られる熱心な娘さんでした。

入院した頃は、日常生活もほとんど手伝うことはありませんでしたが、徐々に全身状態が悪くなり、眠っている時間が長くなっていき食事もほとんどとれなくなりました。医師から娘さんへ病状説明がありとても厳しい状態であることが伝えられ、その日の夜は娘さん2人が仮眠をとりながらAさんに付き添われていました。私は何度も痰をとったり血圧や脈拍を測り、状態をこまめに説明しながら寄り添い続けました。徐々に心拍数が下降してくると、娘さんは泣き崩れてしまいました。そのとき私は、祖母との最期の時、看護師に言われた言葉を思い出し、「最期まで耳は聞こえているので、声を掛けてあげて下さい」と伝えました。娘さんが「ママありがとう」と言葉をかけると、Aさんの目から1粒の涙が落ちる様子が見えました。帰るとき娘さんは私に「本当にありがとうございました」と言葉をかけてくださいました。

誰しも大切な家族を失った時の喪失感は大きく計り知れません。この時の経験は、看護師のかける一言が家族の心を少しでも楽にできるということを知ることが出来ました。

今は、新型コロナウイルス感染症で面会制限をしています。その為、入院している患者さんに家族はなかなか会うことができません。だからこそ患者さんや家族に寄り添い、支援していくことは大切な看護だと改めて学ぶことができました。この経験をこれからの看護に活かしていきたいと思います。

思いを叶えるために・・・。

2020年8月26日掲載

私は病棟でチーム一丸となって係わった、全身性エリテマトーデスを患っていた若い女性の患者さん(以下Qさん)の事が印象に残っています。

Qさんは何度も入院を繰り返していましたが、治療に対して前向きに闘病されていました。しかしだんだんと前向きさは失われ、この入院ではかなり気持ちが落ち込んでいる様子でした。

しかしそんな中でも、ケアマネージャーの試験にチャレンジするために毎日問題集に向かう姿があり、その様子を見ていて何とか試験を受けさせてあげたいと思うようになりました。そしていつしかチームでもそれが目標になっていました。

Qさんは移動の手段に車いすが必要なのですが、飲み薬の副作用によって体重が増え、肥満状態であったため使用できる車椅子がありませんでした。そのことをQさんに伝えると、減量に積極的に取り組まれみるみる体重は落ちていきました。そして、いつしかQさんにも笑顔や会話が増え、本来の前向きさを取り戻していきました。その後もリハビリに意欲的に取り組まれ、経過は順調に進みました。そして試験当日、時間に余裕を持ってみんなで送り出すことができました。

この経験から、患者さんと看護師がチームで同じ目標を持ち、取り組むことで信頼関係も一層深まり、達成した時の喜びも大きい事を実感しました。患者さんはある程度制限された中で入院生活を過ごしています。患者さんの気持ちに寄り添い、信頼関係を大切にして、これからも看護師として頑張りたいです。